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名古屋地方裁判所 昭和48年(ワ)1924号 判決

原告 鶴田一郎

被告 株式会社藤川苑

主文

被告会社の昭和四八年六月八日の定時株主総会における「今井巌、竹内正、今井文子、今井輝美、今井将守、鈴木信二、鈴木良明及び鈴木肇をそれぞれ取締役に、今井タマを監査役に選任する」旨の決議を取消す。

被告会社が昭和四八年六月二六日にした額面株式一万二、〇〇〇株の新株発行は無効であることを確認する。

訴訟費用は被告会社の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

主文と同旨。

二、請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1  原告は、被告会社の株式二、〇〇〇株を有する株主である。

2  被告会社代表者は、昭和四八年五月二三日付で各株主に対し、同年六月八日午後一時、被告会社において定時株主総会を開催する旨の通知をなしたうえ、これを開催し、右株主総会(以下、本件株主総会という)において、主文第一項記載の決議がなされた。

3  しかし、本件株主総会は取締役会の決議によらないで、招集されたものである。

4  そして、被告会社は、昭和四八年六月八日、本件株主総会決議により選任された取締役で構成する取締役会において同月二六日を払込期日とする額面五〇〇円の新株一万二、〇〇〇株の発行を決議したうえ、同月二六日、これを発行した(以下、本件新株発行という)。

5  しかし、本件新株発行は、次の理由により無効である。

(一) 本件新株発行についての取締役会決議は、前記3のとおり、取消されるべき株主総会決議により選任された取締役らによつてなされたものであつて、有効な取締役会決議なくしてなされたものというべきである。さらに、本件新株発行のごとく、その発行数も少なく、引受人もすべて被告会社代表者と親族関係にある少数の者に限られている等の事情のある場合は、無効というべきである。

(二) また、被告会社は右新株払込期日の二週間前に新株発行事項につき、公告をなさず、かつ、当時株主であつた原告、訴外鶴田一巳、同鶴田志づ及び同鶴田藤作にこれを通知しなかつた。右は、被告会社代表者が自己及びその親族によつて、被告会社の経営及び資本を完全に支配しようと企てて、なしたものであるから、著しく不公正な新株発行というべく、右新株発行は無効である。

6  よつて、原告は、その株主たる地位に基き、被告会社に対し、主文第一、二項記載の判決を求める。

二、被告会社の本案前の抗弁

原告は、被告会社の株主ではなく、したがつて、本件各請求につき原告たる適格を有しない。即ち、

1  原告は、被告会社設立に際し、株式二、〇〇〇株を引受けたが、発起人であつた被告会社代表者の再三の請求にもかかわらず、払込をなさなかつたので、被告会社代表者がかわつて払込んだ。したがつて、右払込の時点で、原告は、被告会社代表者に対し、黙示的に、株式引受人たる地位を譲渡したものである。

2  さらに、原告は、昭和四八年六月七日、被告会社代表者に対し、「自分達親族は、全部会社をおりる。」旨述べ、株主たる地位を被告会社代表者に対し、譲渡する旨の意思表示をした。仮に、右が、譲渡の意思表示といえないとしても、株主たる地位の放棄というべきである。

三、本案前の抗弁に対する原告の主張

1  被告会社代表者が、原告の引受けた株式二、〇〇〇株につき、これを立替えて払込をなしたが、この結果、原告、被告会社代表者間に貸借関係が残るのみであつて、原告の株主たる地位に影響はない。また、原告が、その際、被告会社代表者に対し、株式引受人たる地位を黙示的に譲渡したということもない。

2  さらに、原告が、昭和四八年六月七日、被告会社代表者に対し、原告の株主たる地位を譲渡ないし放棄したことはない。

四、請求原因に対する認否

1  請求原因1記載の事実は否認する。

2  同2記載の事実は認める。

3  同3記載の事実は認める。そして本件株主総会は代表取締役である被告会社代表者が招集したのであつて、株主総会招集のための取締役会決議は、会社機関の内部意思決定に過ぎないのであるから、これを欠いても直ちに株主総会決議の取消原因とはならないものというべきである。

4  同4記載の事実は認める。

5  同5(一)記載の事実のうち、本件新株発行についての取締役会決議が、本件株主総会決議で選任された取締役らによつてなされたこと、及び、新株発行数も少なく、引受人もすべて被告会社代表者とその親族であることは認めるがその主張は争う。取締役会の決議によらない新株発行であつても、代表取締役がこれをなした以上、無効とはいえない。そして、引受人が、被告会社代表者及びその親族に限られているとしても、これを第三者に譲渡する可能性がある以上、取引の安全を害さないものとはいえない。さらに株主総会決議取消判決には、原則として遡及効があるが、右決議を前提として社団的行為ないしは取引行為がなされたときは、その遡及効は否定されるべきである。

同5(二)記載の事実のうち、被告会社が、本件新株発行につき公告及び通知をしなかつたことは認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。新株発行に瑕疵があつたとしても、重大な法令、定款違反の場合を除いて、取引の安全を考慮すれば、無効原因とはならないというべきである。

五、抗弁

1  本件株主総会招集当時、取締役であつた原告及び訴外鶴田一巳は、被告会社の運営一切を被告会社に任せていたのであるから、本件株主総会招集についての取締役会における決議権限も、黙示的に委任していた。そして、被告会社のごとく、発行株式数も少なく、株主はすべて密接な関係にあり、かつ、その業務遂行も被告会社代表者に一任されている会社にあつては、右委任を認めても、何ら実害はない。したがつて、被告会社代表者が本件株主総会を招集した以上、これについての取締役会の決議はなされたものというべきである。

2  被告会社代表者が、昭和四八年五月二四日、原告方へ、原告、訴外鶴田一巳、同鶴田志づ、及び同鶴田藤作に対する本件株主総会招集通知を持参した際、被告会社の取締役であつた原告及び訴外鶴田一巳は、本件株主総会招集につき、何らの異議も述べなかつた。したがつて、右時点で、取締役会決議はなされたものというべきであり、仮に、そうでないとしても、原告及び訴外鶴田一巳が異議を述べなかつたことにより、取締役会の決議欠缺という本件株主総会招集の瑕疵は治癒されたというべきである。

3  さらに、本件株主総会は、被告会社の株主であつた被告会社代表者、訴外今井文子、同今井タマ、及び同今井輝美の四名全員が出席したいわゆる全員総会であるから、何らの瑕疵なき株主総会である。

4  仮に、以上いずれの主張も認められないとしても、当時取締役であつた原告及び訴外鶴田一巳は、被告会社代表者に被告会社の業務遂行を一任しており、事実上辞任していたのであるから、実質的には取締役会の決議はあつたものといえる。さらに、被告会社の株主は、被告会社代表者及び原告並びにその親族に限られており、いずれも密接な関係にあり、本件株主総会招集通知も株主全員になされていること等を考慮すれば、本件株主総会決議の取消は、裁判所の裁量により棄却されるべきである。

5  本件新株発行は、一株五〇〇円の正当な価格であり、さらに、新株発行に至つた事情は、昭和四八年六月末の手形決済資金を調達するためになされたのであるから、株主が不利益を受ける虞れがある場合に該当せず、新株発行事項につき、公告及び通知を欠いていても、無効ということはできない。

六、抗弁に対する認否

1  抗弁1記載の事実のうち、被告会社の発行株式数も少なく、株主もすべて密接な関係にあることは認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。取締役が、他の取締役に対し、取締役会の決議権限を委任することは、商法二三一条に違反し、許されない。

2  同2記載の事実は否認し、その主張は争う。原告及び訴外鶴田一巳は、被告会社代表者が本件株主総会招集通知書を持参した際、「株主総会の招集は、取締役会を開いて決定すべきである。」旨抗議したのであつて、異議を述べなかつたということはない。さらに、取締役会は、取締役が自ら出席して決議に加わる必要があつて、被告会社主張の瑕疵の治癒ということもありえない。

3  同3記載の事実は否認し、その主張は争う。当時、被告会社主張の四名のほか、原告、訴外鶴田一巳、同鶴田志づ及び同鶴田藤作も株主であり、右四名が出席しない以上、全員総会ということはありえない。

4  同4記載の事実のうち、被告会社の株主が、被告会社代表者及び原告並びにその親族に限られており、いずれも密接な関係にあることは認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。株主総会招集に取締役会の決議を欠いていることは重大な瑕疵というべきであり、原告及びその親族は、被告会社の発行株式数の二分の一を有しており、原告及び訴外鶴田一巳が被告会社の三名の取締役のうちの二名を占めていることを考慮すれば、裁量棄却は許されない。

5  同5記載の事実は否認し、その主張は争う。

第三、証拠〈省略〉

理由

第一、本案前の抗弁(原告の当事者適格)について。

一、被告会社は、原告は被告会社の株主ではないから、本件各請求につき、原告たる適格を有していない旨主張するので、この点について判断する。

二、成立に争いのない甲第五号証の三、四及び八、証人鶴田一巳、同鈴木肇の各証言、並びに、原告本人及び被告会社代表者(第一、二回)各尋問の結果によれば、原告及び被告会社代表者は、昭和四七年八月一五日、料理飲食業を目的とする被告会社を設立したこと、右設立の際、被告会社の資本金は金三〇〇万円とし、発行株式数は六、〇〇〇株として、原告及び被告会社代表者双方で各二分の一ずつ引受けることとし、原告において二、〇〇〇株、原告の息子である鶴田一巳、同じく鶴田藤作、原告の妻である鶴田志づ(いずれも被告会社の発起人でもあつた)において、それぞれ四〇〇株、三〇〇株、三〇〇株を引受けたこと、そして、右原告らの引受けた株式の払込は、被告会社代表者が銀行から借入れて払込む約束であつたため、被告会社代表者が昭和四七年八月一五日までに訴外豊田信用金庫上郷支店から金一五〇万円を借り受け、右金員を原告らの株式払込金として、払込取扱機関である同支店の自己名義の別段預金口座に払込んだこと、原告は、右金一五〇万円については、被告会社の役員報酬で返済するつもりであつたこと、以上の事実を認めることができ、この認定を覆えすに足りる証拠はない。一方、被告会社は、原告が、被告会社代表者の再三の請求にもかかわらず、引受けた株式の払込をなさなかつたので、被告会社代表者が原告にかわつて、この払込をなし、この時点で、原告から被告会社代表者に対し、黙示的に株式引受人の地位の譲渡があつた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、前記認定事実に照らせば、原告には、黙示的にせよ、その株式引受人たる地位を被告会社代表者に対し、譲渡する意思はなかつたことを認めることができる。したがつて被告会社の、原告が被告会社代表者に対し、黙示的にその株式引受人の地位を譲渡した旨の主張は採用することができない。

三、被告会社は、原告が昭和四八年六月七日被告会社代表者に対し、その株主たる地位を譲渡ないし放棄した旨主張し、証人今井輝美、同鈴木肇の各証言及び被告会社代表者尋問の結果(第一、二回)によれば、原告が、本件株主総会の前日である昭和四八年六月七日、被告会社代表者に対し、「こちらは全面的に手を引く。株主総会にも出席しない。」旨述べたことを認めることができる(この認定に反する原告本人尋問の結果は措信しない。)が右事実をもつて原告の株主たる地位の譲渡ないし放棄の明確な意思表示があつたと認めるには未だ十分でなく、他に原告がその株主たる地位を譲渡ないし放棄したことを窺わせる証拠もない本件にあつては、被告会社の右主張はこれを採用することができない。

四、証人鈴木肇の証言及び被告会社代表者尋問の結果によれば被告会社代表者は、被告会社設立後、原告らの株式払込金一五〇万円を自己名義の別段預金口座から被告会社名義の当座預金口座に振り替えたうえ、これを引出し、豊田信用金庫上郷支店に返済したことを認めることができ、右はいわゆる見せ金の一場合というべきであつて、原告らの株式払込は無効といわなければならないが、発起人として株式を引受けた原告らにあつては、単にその払込義務を未だ履行していないというにとどまり、会社成立後にあつては、利益配当請求権等の自益権の行使については別段の考慮を必要とするとしても当然に株主たる地位を有するに至つたものというべきである。

五、以上のとおりであるから、原告は、被告会社の二、〇〇〇株の株主たる地位を有しているものということができ、したがつて、原告が株主でないことを前提とする被告会社の本案前の抗弁は理由がない。

第二、本案について、その一株主総会決議取消につき。

一、請求原因2記載の事実、即ち、被告会社代表者が、昭和四八年五月二三日付で各株主に対し、同年六月八日被告会社において定時株主総会を開催する旨の通知をなしたうえ、これを開催し、本件株主総会において、主文第一項記載の決議がなされたこと並びに、同3記載の事実、即ち、本件株主総会が取締役会の決議によらないで招集されたことは当事者間に争いがない。

二、被告会社は株主総会招集のための取締役決議は会社機関の内部意思決定に過ぎないのであつて、これを欠いても直ちに株主総会決議の取消原因とはならない旨主張する。しかし、取締役決議が会社機関の内部意思決定であることは首肯しうるものの、商法二三一条は「(株主)総会の招集は(本法に別段の定ある場合を除くの外)取締役会之を決す」と規定しており、取締役会の決議なくして株主総会を招集した場合は同条の招集手続違反として決議取消原因にあたるものといわねばならない。したがつて、右主張は採用できない。

三、被告会社は、当時取締役であつた原告及び訴外鶴田一巳は被告会社代表者に対し本件株主総会招集についての取締役会決議権限を委任していたのであるから、取締役決議はなされた旨主張するので、この点につき検討する。

そもそも、商法二六〇条の二は取締役会について、定足数及び決議要件をいずれも取締役の過半数と規定し、その趣旨に照らすと、取締役自身出席して、その協議と意見の交換により、会社の業務執行を決定することを要求しているものと解される。したがつて、取締役が自ら取締役会に出席することなく他の取締役に対し、取締役会の決議権限を委任することは許されないというべきである。そしてこの理は、当該会社がいわゆる同族会社であつてその業務執行が一の取締役に一任されている事情にある場合においても、右事情が裁量棄却事由として考慮されうる余地があることは格別として、否定されるものではない。してみると被告会社の右主張は失当であつて採用できない。

四、被告会社は、被告会社代表者が本件株主総会招集通知書を持参した際、原告及び訴外鶴田一巳は本件株主総会招集につき、何らの異議も述べなかつたのであるからこの時点で、取締役会決議がなされたのであり、仮にそうでないとしても、取締役会の決議欠缺の瑕疵は治癒された旨主張する。しかし取締役会の決議は現実に取締役が出席してなされることを要することは、前記三において判示したとおりであつて、たとえ事後に取締役がこれを承認したとしても取締役会の決議があつたあるいは瑕疵が治癒されたものということはできないから被告会社の右主張は失当であつて採用できない。

五、被告会社は本件株主総会はいわゆる全員総会である旨主張するが、原告、訴外鶴田一巳、同鶴田志づ及び同鶴田藤作も被告会社の株主であることは前記第一に判示したとおりであつて、右原告らが株主でないことを前提としていわゆる全員総会であるとする右主張はそれ自体失当であるのみならず、原告らが本件株主総会に出席しその開催に同意したと認めるに足りる証拠もない本件にあつては、右主張は到底採用できない。

六、被告会社は、本件株主総会決議取消は裁量棄却されるべきである旨主張するので、この点につき判断する。

1  被告会社の株主が被告会社代表者及び原告並びにその親族に限られており、いずれも密接な関係にあることは当事者間に争いがない。

2  証人鶴田一巳、同今井輝美の各証言、原告本人、被告会社代表者(第一、二回)各尋問の結果によれば、被告会社設立に際し、被告会社代表者、原告及び訴外鶴田一巳が取締役に、被告会社代表者及び原告が代表取締役にそれぞれ就任したがその際創立総会及び取締役会は開催されず、被告会社代表者と原告が話し合つたのみであること、訴外鶴田一巳は被告会社が営業するドライブイン「ひだ路」開店の際それを手伝つたことはあるが、その後二、三回「ひだ路」に顔を出したのみで、被告会社の業務執行には参画していないこと、原告も「ひだ路」を開店した昭和四八年三月二六日から同年四月中旬頃までは「ひだ路」に毎日出勤していたが、被告会社代表者から開店準備金の使途不明金の返済及び原告らが引受け被告会社代表者が立替えて払込んだ株式払込金の支払を請求され、さらに、「ひだ路」の営業について、被告会社代表者との間で意見の相違が生じてきたため同年四月中旬頃以降「ひだ路」へ出社しなくなつたこと、その後における被告会社の業務執行は、被告会社代表者が単独でこれを行なつてきたこと、そして、被告会社代表者は昭和四八年五月、昭和四八年度の決算において金七五〇万円の欠損が生じ、さらに同年六月末に金四〇〇万円の手形決済の必要があつたことから、被告会社の増資を企図し、昭和四八年度の事業報告、決算承認及び役員改選を議題とする本件定時株主総会の招集を決定したこと、被告会社代表者が同月二四日原告ら四名分の本件株主総会招集通知書を原告方に持参し、訴外鶴田一巳及び同鶴田志づにこれを手渡し、本件株主総会の出席を求めたところ、訴外鶴田一巳は株主総会を開催するには時期早尚であると述べたほかは本件株主総会招集に格別の異議も述べなかつたこと、翌二五日原告は、被告会社代表者に対し、本件株主総会に出席しない旨電話したこと、そして原告は本件株主総会の前日である昭和四八年六月七日、被告会社代表者に対し、再度本件株主総会に出席しない旨及び原告らが被告会社から手を引く旨電話したこと、以上の事実を認めることができ、この認定に反する原告本人尋問の結果の一部は容易に措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠もない。

3  ところで、株主総会決議取消においてその招集の手続又は決議の方法に性質、程度から見て軽微な瑕疵があるにとどまり、その瑕疵が決議の結果に影響を及ぼさないと認められるときは、裁判所は、取消の請求を裁量棄却しうるものと解されるところ、本件株主総会決議取消の請求も、前記3の認定事実に照らせば、裁量棄却の余地が全くないとはにわかに断定しがたいところである。

4  そこで、更に検討するに、証人鶴田一巳の証言、原告本人及び被告会社代表者(第一回)各尋問の結果によれば、本件株主総会には、原告、訴外鶴田一巳、同鶴田志づ及び同鶴田藤作は出席しておらず、かつ委任状も提出していないこと、そして被告会社代表者は訴外今井輝美、同今井文子及び同今井タマの委任状により、一人で本件株主総会を行なつたことを認めることができ、原告ら四名の有する株式数は、前記第一、二判示のとおり、合計三、〇〇〇株であつて、本件株主総会当時の被告会社の発行済株式総数の二分の一を占めていたことからすれば、本件株主総会は商法二三九条一項に規定する定足数を欠いていたものと認めることができる(なお、商法二三九条一項は定款に別段の定めある場合は除くとされているが、成立に争いのない甲第五号証の三の被告会社の原始定款中にも右定めはなく、他に右定款における別段の定めを認めるに足りる証拠もない。)。してみると、本件株主総会決議は定足数を欠いてなされたものといわねばならず、その決議の方法に商法二三九条一項違反の重大な瑕疵があるものといわねばならない。

5  そうとすると、結局本件株主総会決議取消は前述した裁量棄却しうる場合に該当しないものというべく、取消すべき場合に該当するものといわねばならない。

その二新株発行無効確認につき。

一、請求原因4記載の事実、即ち、被告会社が、昭和四八年六月八日、本件株主総会決議により選任された取締役で構成する取締役会において同月二六日を払込期日とする額面五〇〇円の新株一万二、〇〇〇株の発行を決議したうえ、同月二六日これを発行したことは当事者間に争いがない。

二、原告は本件新株発行の無効を主張するので判断する。

1  原告は、本件新株発行は、取消されるべき本件株主総会決議により選任された取締役らによつて構成された取締役会の決議によりなされたものであるから無効である旨主張する。

そこで、株主総会決議取消の判決の効力について検討するに、原則としては決議は遡及的に無効となるが、右決議に基づいて一定の行為がなされた場合において、その決議の成立を前提として、社団的行為あるいは取引行為が進展していくときは、会社関係及び第三者との法律関係の安定を考慮すればこれを保護する必要のない特段の事情のあるときは別として、取消による遡及効を否定するを相当と考える。そして有効な取締役会の決議なくしてなされた新株発行も、代表取締役がこれをなした以上、新株発行は会社の業務執行に準ずるものと考えられ、かつ、取締役会の決議は会社機関内部の意思決定であり、有効な新株発行がなされたものと信じてこれを引受けた第三者の保護を考慮すると、右新株引受人を保護すべき必要のない場合は別として原則として右新株発行も有効と解するのが相当である。

そして、以上の見地から、本件を検討するに、本件新株発行はその発行株式数も少なく、引受人もすべて被告会社代表者とその親族に限られていることは当事者間に争いがなく、被告会社代表者尋問の結果(第二回)によれば、本件株主総会の前日である昭和四八年六月七日夜、被告会社代表者及び本件株主総会で取締役及び監査役に選任される予定であつた訴外竹内正、同今井文子、同今井輝美、同鈴木良明、同鈴木肇らが本件新株発行をなすこと、及びこれをすべて同人らが引受けることを合意し、本件新株発行手続を被告会社代表者に一任したことを認めることができる。以上の事実に照らせば、本件新株発行における引受人は前述したごとく、必らずしもその利益を保護するべき第三者であるということはできない(なお、被告会社は、株式を第三者に譲渡する可能性がある以上、取引の安全を害さないとはいえない旨主張するが、株式を第三者に譲渡する可能性があるというだけでは、未だ取引の安全を害するとはいえない)。以上の認定、判断に照らせば、本件新株発行はその法律関係の安定を保護する必要のない場合ということができ、したがつて、本件株主総会決議取消は遡及効を有し、結局、本件新株発行は有効な取締役会決議によらないものであつて、無効といわなければならない。

2  原告は、本件新株発行は、新株発行事項につき、公告又は通知の欠缺の瑕疵があるので、無効である旨主張するのでこの点につき判断する。新株発行につき、商法二八〇条の三の二所定の公告又は通知の欠缺があつた場合においても、同法二八〇条の三の三所定の場合は除外されるのは当然として株主が新株発行差止請求をしても、それが認められないことを会社が立証した場合には無効原因とはならないものと解するのが相当である。

そして、右見地に立つて、本件を検討するに、被告会社が本件新株発行につき、その新株発行事項の公告、通知をなさなかつたことは当事者間に争いがなく、証人今井輝美同鈴木肇の各証言、被告会社代表者尋問の結果(第一、二回)によれば、被告会社は昭和四八年六月末日金四〇〇万円の手形を決済する必要があり、その資金調達のため、本件新株発行をなしたこと、しかしながら、本件新株発行の新株割当は、従来の株主である原告及びその親族を除外して、すべて被告会社代表者及びその親族になされたことを認めることができる。

この事実に照らせば、原告において必らずしも、本件新株発行差止請求を認容されなかつたとは断定できない。してみると、本件新株発行は、公告、通知を欠いていた点においても、無効原因があるというべきである。

第三、以上のとおりで原告の本訴請求はいずれも理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 黒木美朝 生田暉雄 竹田隆)

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